セメント系固化材配合試験と安全率

2019年02月14日 地盤改良

地盤改良における安全率について説明します。

安全率とは、地盤改良に関わらず身の回りのあらゆる構造物について用いられます。構造物の強さを考慮した安全性を確保するための数値と考えればよいでしょう。住宅や公共施設・道路や橋梁などの建造物に限らず、身の回りの工業製品全般の設計に関わっています。想定以上の使い方をされても耐えうるような余裕を持って設計されたものといえばイメージしやすいでしょう。

世の中の構造物は降伏しないように設計されています。この場合の降伏とは、簡単にいえば「もとの形をとり戻さない変形」のことです。材料にはそれぞれ降伏強度があります。例えば金属に荷重をかけて変形させたとします。その荷重を除いてからも金属は元の形をとり戻さず、変形したままです。この状態を塑性変形といいます。降伏強度とは、この塑性変形が生じない最大応力のことです。構造物を作る際、降伏強度の上限近くで設計すると、天災や人災その他の要因で荷重をかけられることによって構造物が降伏してしまう恐れがあります。ここで安全率を利用します。降伏強度を分子、安全率を分母にして求められた数値(許容応力度)をもとに設計すれば降伏のリスクを軽減できるのです。

地盤改良などの土木分野においては安全率を大きめに設定するのが一般的です。土木分野で扱う建造物や機械等は降伏することで人命が危うくなることもありうるので、余裕を見込んで設定されます。

地盤改良でよく用いられるセメント系固化材の安全率について考えてみましょう。セメント系固化材の添加量は、地盤改良に先立って室内で行う配合試験で決定するのが一般的です。実際に工事を行う際に発現する強度(現場強度)と室内配合強度の比率が安全率として扱われます。工事の方法によって安全率の設定は異なります。表層改良においては、湧水や堆積土などの外部環境の影響によって強度を上げることもあります。深層混合処理工法で、垂直方向に複数の異なる地質がある土地では、安全性の確保をより厳格に考え、安全率を高く設定することもあります。なお、配合試験や添加量について、詳しくは「セメント系固化材による地盤改良マニュアル(※)」をご参照ください。

軟弱地盤の山留工事、道路や幹線の建設、ダムや堤防の建設においては人工的な斜面を作ることになり、その斜面は崩壊しないよう設計されなければなりません。このため、地質等に関する様々な情報を収集した上で安全率を考慮したカルテが作成されます。

このように、地盤改良の分野では安全率を用いて、崩壊を回避するために余裕を見込んだ設計がなされています。

 

※「セメント系固化材による地盤改良マニュアル[第4版]」セメント協会(H24.10)