ため池を浚渫して人と自然を守る
2022年02月16日 ため池
ため池の浚渫とは、堤内にたまった土砂(堆砂)を除去することです。ため池の貯水容量(洪水調節容量)を維持して下流の農地や宅地の被害を防ぐことができます。また、浚渫は周辺の生態系の保全にもつながります。この記事で浚渫の意義を説明しましょう。
浚渫が必要なため池とは
浚渫が必要となるのは、堤内に土砂などが堆積して豪雨などの天災が発生した際に下流地域へ湛水被害や土砂流出被害を生じさせる恐れがあるため池です。
ため池はそもそも貯水と取水を目的とした施設なので、河川や他のため池から水が流れ入る構造となっています。周辺区域の市街化が進んで雨水の排水が特定の用水に集中し、結果としてため池に流入する水や土砂、さらにはごみが増えるケースが多く見られます。
野鳥をはじめとした野生の動植物が生息する水辺空間となっているため池もあり、浚渫によって人的被害のリスクを減らすだけでなく、生態系を守ることが図れます。近年は環境意識の高まりや、地域社会の再評価が進んでいることを背景に、地域が一丸となって、浚渫をはじめとしたため池の整備や保全に取り組んでいる事例もあります。
ため池の調査と浚渫の計画
浚渫の効果を保証するために第一に必要なのは、浚渫によって堤体などの安定が失われないことです。浚渫工事中に堤体の一部を損壊させるといった、堤体の強度を下げるような事態が起こると、ため池の決壊などのリスクが生じて本末転倒になってしまいます。
浚渫工事では、浚渫する土砂等の量を把握することや、発生した土砂等を処理する方法を計画しておくことも求められます。作業には高い技術が求められるので、信頼できる業者に依頼しましょう。
浚渫工事の前に測量を行って、ため池にどのくらいの堆砂があるか把握します。もし、ため池を設置した当時の平面図や断面図があるのなら、測量結果を書き込むとよいでしょう。測量を行うことが難しいケースでは専門業者に相談して、これまでの浚渫工事の事例からどれくらいの土砂を浚渫するか推計するといった方法をとります。
測量が終わったら、工程や、工事で用いる重機および運搬車両の組み合わせ・工事中に利用する仮設道路の設計・浚渫した土砂の処理方法などの計画を立てます。
浚渫工事の実施
重機の運搬や、浚渫で発生した土を搬出するために仮設道路を築く必要がある場合は、そこから作業をスタートさせます。 さらに、退避所を設けたり、看板等を設置して一般車の侵入防止を図ったりするなどの配慮が必要です。
これらの作業が完了したら、重機による堆砂の掘削・搬出作業です。ため池はあらかじめ水抜きして、堆砂が含んでいる水分をできるだけ減らしておきます。
掘削作業を始める前に、まずは重機の足場を確保します。重機が横転したりヘドロにはまったりすることを防ぐためです。また、土砂を運搬する際は運搬経路を適宜確認し、汚れている場合は清掃します。浚渫で発生した土は計画に沿って処理します。
工事中は安全対策を徹底します。法律上のルールを順守することはもちろん、工事現場におけるルールを守り、地域住民の皆様への配慮を欠かしません。特に工事車両は交通ルールを守って事故を起こさないよう細心の注意を払います。さらに、環境に配慮して施工を進めることも現代社会では強く求められています。
点検と改修
浚渫の完了後は堤体の点検と、必要に応じた改修です。測量は浚渫工事の後にも実施して、現状を図面化することが大切です。貯水容量も記録して、次回の浚渫工事に役立てます。
点検と改修が完了したらため池に水を入れ、漏水調査や安全対策を行います。ため池の浚渫に合わせて周辺の景観を整備したことで、近隣住民の訪れが増え、ため池の維持管理に関心を寄せる人が増える好循環が生まれたとの報告もあります。ため池は現代に残った貴重な資源です。多くの力を合わせて、保全に取り組みましょう。