ダム堆積の土砂除去とダムの長期使用

2020年06月03日 ダム

記録的豪雨が発生してダムの治水機能が再評価される中、201912月の報道は注目を集めました。ダムに堆積した土砂(堆砂)の問題について、この報道で初めて知った方もおられることでしょう。

報道の内容は、道府県の管理下にある治水目的のダム全国431基のうち42のダムが、平成29年度末の時点で許容量をオーバーして土砂が堆積しているというものでした。許容量をオーバーしているダムは洪水を防ぐ機能を果たせない可能性があります。自治体の財政負担を軽減し土砂堆積対策を促進するため、堆積した土砂除去のための事業を行った自治体に対して、総務省が費用の7割を補助することが併せて報道されました。

治水機能の低下だけでなく、堆砂は様々な問題を引き起こします。ヘドロの発生や河岸浸食、海岸浸食、河床低下などの環境問題です。先に紹介した報道に関して、総務省が治水目的のダムに限らず、河川や砂防ダムなどに堆砂対策事業を行うケースも補助対象としたのは、環境保護の観点からでしょう。ダム湖にたまる土砂を平時にきちんと除去しておくことが防災対策として重要だということを世間に印象づけた報道でした。

土砂堆積対策として長い歴史があるのが浚渫ですが、近年はダムにバイパストンネルを設置するケースも増えつつあります。これはダムの土砂吐きと呼ばれ、洪水の際には土砂の混じった河水を下流に迂回させてダム湖の堆砂を防ぎ、流砂機能を促進させるねらいがあります。他の水系のダムでは、洪水時に下流に直接流砂させることでバイパストンネルと同じ効果を図るものもあります。しかし、これらのダムにおいてもやはり浚渫などの作業を計画的に行うことは欠かせません。ダム湖に長期間堆積しヘドロ化した土砂を下流に直接流すことは環境への負荷が大きいこともその理由です。土砂吐きの設備や洪水時の下流への流砂は、浚渫を省くための技術ではなく、浚渫と併用することで排砂を促進するための手段なのです。

ダムの堆砂問題を論拠に、「今あるダムは100年以内に土砂の堆積のために使えなくなる」といった悲観論もありますが、適切な土砂堆積対策を行えば過剰に心配する必要はありません。堆砂の進行を恐れてダムを撤去するのでなく、堆砂を除去することでダムをメンテナンスする方が、資源を守り財源を保つ観点からも合理的で、現代社会の実情に合っているといえるでしょう。