ダムの堆砂対策・排砂ゲートと浚渫
2020年06月05日 ダム
ダム湖内に堆積した土砂(堆砂)はダムの維持管理の面で非常に大きな課題です。この記事では、堆砂を排出する(排砂)機能を備えているダムについて説明します。
排砂とは、水流が土砂を運ぶ力(掃流力)を利用して、貯水池の堆砂をダムの下流へ排出させることです。まず、水の流れを大きくするために排水後ただちにダム貯水池を一時的に空にします。次に、排砂ゲートを開け、流水とともに堆砂を排出します。堆砂の排出が完了したら、排水ゲートを閉じて再び貯水池に水をためます。
排砂設備は、流出土砂が多い河川の流域においては、ダムの堆砂容量を抑えられる上、ダム下流の河床低下・河口付近の海岸侵食などの環境問題を改善するとの見方もあります。その反面、運用には充分な注意が必要です。堆砂を下流に流すことは環境への負荷が大きいため、上流から下流まで、さらには海岸まで含めた流域全体への配慮が欠かせません。しかも、排砂の際も治水・利水というダム本来の役割を維持することが当然求められます。
排砂による環境変化をできるだけ小さくとどめる方法として、黒部川の出し平ダム・宇奈月ダムでは、ダムの出水に合わせて排砂ゲートを開けるダム排砂方法・「連携排砂」を実施しています。連携排砂とは、同じ河川の上流と下流で隣り合っているダムどうしで連携して排砂ゲートからの排砂を行うことです。黒部川では地形の険しさなどの要因から土砂の流出量が多く、堆砂が進行しやすいという問題があります。黒部川には発電所や治水・利水を目的とした複数のダムが建設されていますが、その中の出し平ダム・宇奈月ダムで、国内で初めて連携排砂という方法がとられることとなったわけです。観測の結果、増水時に排砂するのが一番自然に近いということがわかり、連携排砂は増水時に行うなどの工夫がなされています。この一大事業は平成13年以降現在に至るまで、ニュースでとり上げられるなど注目を集めています。
特に出し平ダムの場合は峡谷であるため、一般的な堆砂対策である浚渫を行った場合、堆砂の運搬が困難なことから、排砂ゲート、さらには連携排砂という方法が選択された事情があります。とはいえ、排砂ゲートのないダムはもちろん、排砂ゲートを備える多くのダムの浚渫工事は行われています。浚渫は排砂と比較して環境負荷が小さく、計画的に行うことで堆砂の進行を防ぐことができます。ダムを維持管理するための堅実な方法として、浚渫は依然高い評価を受けているのです。