ため池堤体の断面図からわかること
2021年11月25日 ため池
ため池堤体の断面図を見ると、取水や貯水の仕組みを理解しやすくなります。古くからの知恵に新しい知見を組み合わせて安全対策が施されていることも確認できます。地盤改良や浚渫を行うことで、安全への備えをよりいっそう確実にすることが可能です。
ため池の機能と安全対策
堤体とは、水を貯めるために土を盛り上げて築いた堤のことです。水を通しにくい土が用いられます。堤体の中心または貯水側に刃金(水を通さないための粘土質の土)を入れているケースもあります。波浪の浸食を防ぐため堤体に遮水シートやブロックを張ったり、浸透水による法面の崩壊を防止するため護岸を設けて補強したりしているものもあります。
決壊への対策として、堤体には洪水吐きが設けられています。集中豪雨が起きてもため池の水位が基準を超えて上がらないように、水が溢れ出る場所をあらかじめ設けたものです。洪水吐きの多くはコンクリートで作られています。
ため池堤体の断面図を見ると、貯水側に取水施設である斜樋(しゃひ)が確認できます。堤体の法面には数か所の穴が設置されており、穴の蓋を開けたり閉じたりすることで水量を調節するのが斜樋です。近年では洪水吐きと兼用の立樋(たてひ)もよく見られます。斜樋や立樋から取った水を下流へ送るための導水管が底樋(そこひ)です。
以上、ため池で多く見られる構造を説明しましたが、ため池の形状や種類は多様です。ため池は様々な地形において築かれていますし、堤体の土質もため池ごとに異なります。このため、円弧すべりに対する安定計算の方法は数種類が用いられています。
地盤改良と浚渫の重要性
ため池の多くは江戸時代以前に築かれており、老朽化が進んだものも珍しくありません。決壊した場合の浸水想定区域に住宅地や公共施設などがあり、人的被害を与える恐れのあるため池は防災重点農業用ため池に指定されています。耐用年数を超えていると判断されるため池や決壊の恐れがあるため池から順次改修が行われているところです。
ため池の改修や維持管理の方法として有効なのが堤体の補強や堤内の浚渫です。決壊が起きる原因として堤体の強度が小さいことが指摘されていますが、地盤改良によって堤体を補強できます。また、豪雨への備えとして、ため池を浚渫し、貯水できる容量を増やしておくことも必要です。平時の維持管理がため池と周辺地域の安全を守るのです。