ダム貯水池から下流河川に土砂還元
2020年11月24日 ダム
ダムやため池に堆積した土砂(堆砂)を浚渫して河川に置き土することによって河川に土砂を供給することを土砂還元と呼びます。現在、全国各地のダムおよび河川において土砂還元が実践されています。ダムの堆砂問題を解決すると同時に、河川環境の改善につながる、土砂還元について説明します。
ダムは水と共に土砂を貯め込む性質がありますが、ダムの堆砂が進行すると治水機能などが十全に発揮されなくなる恐れがあります。一方で、ダムに土砂を堰き止められることで下流の河川では土砂の量が減少し、粗い礫で河床が覆われる粗粒化(アーマーコート化)と河床の岩盤が剥き出しになる露盤化が進み、河川の石に付着した藻類の剥離更新が進まないなど、河川の新陳代謝が低下することが懸念されます。海岸線の後退といった問題も起きています。
その対策として土砂還元が実施されるようになりました。土砂還元はダム貯水池等の堆砂対策になる上に、下流河川の土砂環境を改善する方法として注目されています。浚渫工事によって除去した堆砂を下流河川に置き土することが各地で試験的に実施されています。排砂ゲートや排砂バイパスなどの施設を新たに設置しなくとも実施できるため、ダムの維持管理対策と環境保護対策を兼ねた、経済性の高い手法といえるのです。
土砂還元には、ダムを放流する際に水と共に堆砂を下流河川へ排砂する方法もあります。このフラッシュ放流と置き土(ダム浚渫工事で除去した堆砂を下流河川に置く)を組み合わることによって効果は高まると見込まれています。
ダムの堆砂を下流河川に還元する取り組みを毎年続けている地域では、河床の粗粒化が改善され、藻類の剥離更新が進んだことなどが報告されています。フラッシュ放流の影響もあり一時的に濁水が見られるなどの問題もあるものの、継続的に取り組むことで効果が見えてくる事例が多いようです。
一方で、課題もあります。還元土砂の量と質、濁水発生の回避、下流河川に土砂を置く効果的な方法、実施コストの低減などは今後も継続的に試験とモニタリングを行って、最適解を見つけ出す必要があります。ダムの堆砂対策に重点を置くのか・下流河川の環境改善に重点を置くのかによって事業の進め方が違ってくるので、目的を明確化した上で実施することも非常に重要です。
私たちの暮らしを支えるダムやため池、河川を守るための地道な取り組みを見守っていきましょう。